付き添い入院
付き添い入院
日本小児看護学会第35回学術集会でテーマセッションをしました(2025年7月6日)
テーマ「付き添う家族への食事や睡眠環境等の支援:どのようなことをしていますか?どうやったらできるようになると思いますか?」
約120名の方にご参加いただき、各施設の現状についてディスカッションをしました。
ディスカッションで得られた各施設で実施されている内容についての要約です。
1. 食事の提供形態と費用
有料提供(1食700〜900円、1日2200円など):ほとんどの施設では付き添い食は有料。前日予約制や定食形式での提供。
市販品の利用:コンビニ、売店、キッチンカー、レストランなどを利用。
病棟内に自販機(冷凍食品、パン、お菓子等)を設置している施設もある。
2. 課題と工夫
費用負担が大きいとの声も多く、1食900円では利用されない傾向がある。
付き添い者の負担軽減のため、食事提供を拡充した例もある(常食提供、寄付によるクーポン配布など)。
保育士や実習生がこどもを一時的に預かることで、家族が食事時間を確保できるよう支援している施設もある。
1. 寝具・ベッドの提供
簡易ベッドやソファベッドの貸し出しが多くの施設で実施されている。有料(例:1泊500~1000円)の施設もあり。無償提供している施設も一部あり。
個室にソファベッドが設置されている場合もある。
2. 添い寝に関する制限
安全面から小児ベッドへの添い寝を禁止している施設もある。
一方、付き添いベッドがない施設では、こどもと同じベッドで一緒に寝るという選択肢しかない場合もある。
3. 環境面の配慮
騒音や空間的余裕に配慮し、父親(多くは母親であり異性となる)の付き添い時には部屋を分ける施設もある。
個室のみ付き添い可能とする施設や、病床数の都合で付き添いの制限がある施設もある。
エアコンがない施設(北海道とか?)では扇風機を貸し出ししている。
4. 家族の負担
寝心地が悪い簡易ベッドや、寝具レンタルの費用負担(例:1泊500~1000円)が家族の負担となっている。
長期入院時には寝具の購入を求められる場合ある。
夜間は看護師のマンパワー不足により、付き添い者の負担が大きくなるという課題もある。
どうやったらできるようになると思いますか。付き添い者支援の実現に向けた方策まとめ
1. マンパワーの確保と活用
診療報酬の加算を利用し、保育士の増員、夜勤帯に他病棟スタッフの応援体制を整備。
看護師の流動的な「リリーフ制」導入や、短時間の保育的支援。
他職種の協力(多職種連携)、退職後の人材(元保育士・子育て経験者など)活用の検討。
2. 制度・仕組みづくり
入院時に付き添い者の情報収集やカンファレンス実施。
食事支援では、病院内でお弁当の注文ができる仕組みや、レストランの配達導入。
院内設備(リラックススペース、調理可能な場所など)を整備。
3. 財政支援と制度活用
支援金・加算制度の把握と活用(情報を医事課で管理)。
一部のサービス(ベッド・食事・駐車場など)の無料化や質の改善(例:簡易ベッド→良質マットレスへ)。
寄付金や特別予算を活用して、付き添い支援・ストレス軽減につなげる(セラピードッグ・ロボット導入など)。
4. 現場の声と病院全体の連携
現場スタッフから病院側に課題を伝え、組織全体での対応と価値観の共有を促す。
「現状できることはすでにやっている」という姿勢を持ちながら、さらに改善するための工夫と提案を進める。
ご参加いただきありがとうございました!
子どもの入院環境の特徴
近年は病院全体が入院日数を短くするようになっており、外来医療、在宅医療にシフトしてきました。2020年では0~14歳の平均在院日数は 8.9日となっています。全年齢の平均在院日数は32.3日であるため、子どもの入院日数は非常に短いことがわかります。
小児科は人件費が高い割に(成人患者の2.1倍の時間と人員が必要. 谷村, 2003)、診療報酬が高くない(内科系疾患がほとんどで処置が少ない)ため、小児医療の不採算性が課題となっています。さらに、小児科は呼吸器感染症が流行する冬の時期や外科系がある病院では夏休み(長期休みに手術や検査入院をする)に入院が増えて忙しくなりますが、気候の良い時期では入院患者数が少なくなって病床稼働率が下がります(コロナ後は流行する時期が変わってきましたが・・・)。
少子化の影響も大きく、小児科のある病院は1990年に4119施設あったのが2014年2656施設と減っています(厚生労働省、2015)。
さらに、2020年からのコロナ禍ではマスク、手洗い、ソーシャルディスタンスなどで感染症が減りました。中小規模の病院の小児科では呼吸器感染、気管支喘息などで入院する患者が多いのですが、感染症が減ったことで小児の入院患者が減り、そこへ大人のCOVID19患者が入院する、または他の病棟がコロナ病棟になってもともとの大人の患者が小児科に入院するなどによって、小児病棟が成人との混合病棟になった施設も多数報告されています。
入院時の親の付き添いの問題
現在、大人が入院する時は当然ながら1人で入院します。身の回りのお世話は看護師さんや看護助手さんがしてくれます。
しかし、私が子どもの頃(1980年代)に祖母が入院し、病院にお見舞いに行ったときには、もうひとりおばあさんが横に寝ていました・・・
その人は祖母のお姉さんで、24時間寝泊まりしながら祖母の身の回りの世話をしていました。
また別の日は、「付き添い婦さん」が付き添いをしていました。入院費以外にお金を払って雇った身の回りのお世話をしてくれる方です。
1980年代頃までは(地方では1990年代頃まで)は、大人であっても付き添いがいることは一般的なことであったようです。
患者が入院する際の「付き添い」とは、家族(親、妻、娘、嫁)が病院に寝泊まりし、患者の身の回りの世話(食事、トイレ、シャワー、更衣など)をすることを示します。
1980年:日本看護協会の調査では、2,464病院のうち、88.3%で付き添い者がついており、その数は全患者の11.9%(普通看護病院では22.8%)であった。そのなかには当然含まれるべきでない職業付き添い者が11.2%(普通看護病院での職業付き添い者は43.6%)含まれていた。
1994年:診療報酬改定により新看護体系が導入され、付き添い看護の計画的な解消を評価するとともに、特別の看護料を創設した。
1995年:付き添い看護料(患者が職業付き添い者に支払い、それに見合う一定看護料が国から患者へ支給される仕組み)が廃止された。支給額は看護婦で1日あたり7490円、無資格の付き添い婦で3930円(国からの支給があっても患者の経済的負担が大きかった)。
このように、以前は大人の患者にも付き添いがおり(病院から暗黙の了解として求められていた施設も)、付き添いに対して国からの補助金が出ていた時代もありました。現在は、看護師の人数が増えて、付き添いを求める施設はなくなりました。ただし、認知症がある患者の入院では付き添いを求める施設もあるそうです。
厚生労働省 診療報酬改定に係る通知(平成30年)
p.9 (6) 看護の実施は、次の点に留意する。
ア 看護は、当該保険医療機関の看護要員のみによって行われるものであり、当該保険医療機関において患者の負担による付添看護が行われてはならない。ただし、患者の病状により、又は治療に対する理解が困難な小児患者又は知的障害を有する患者等の場合は、医師の許可を得て家族等患者の負担によらない者が付添うことは差し支えない。なお、患者の負担によらない家族等による付添いであっても、それらが当該保険医療機関の看護要員による看護を代替し、又は当該保険医療機関の看護要員の看護力を補充するようなことがあってはならない。
つまり、現在における付き添いとは、「本当は看護要員(看護師、看護助手、保育士)が患者の世話をするのだけど、家族側が付き添いたいという希望があれば病院側の許可を得て付き添いさせてあげますよ」ということになっています。
しかしながら、これはたてまえであって実際には半数以上の病院で付き添いを求めているという現状があります。
藤田優一他(2012)全国の総合病院における小児の入院環境の実態調査,小児保健研究 71(6), 883-889(2010年 独立行政法人福祉医療機構のデータベース,ワムネットで検索した全国の小児が入院する病棟のある総合病院663施設のうち無作為抽出した603施設を対象に調査し、252施設より回答)
なぜ子どもが入院する際に付き添いを求められることが多いのか
子どもは生活が自立していないため、清潔、更衣、排泄、食事などがひとりでできません。また、抱っこ、あやす、処置への協力、点滴抜去や転倒・転落などの事故防止が必要です。また、子どもにとっては病気で症状がつらい時に、見知らぬ場所で知らない人にお世話されるよりも、ママやパパがそばにいてくれるほうが安心です。身体の免疫と心理的なストレスは密接に関係していますので、親がそばにいてくれて安心できることが病気の回復促進にもつながります。
付き添いの3タイプ
吉武先生は、母児同室(付き添い)について以下のように分類しています。
①労力提供型:このタイプの参加は、できる限り減らしていく努力が必要
②母子満足型:病棟でのマンパワーが十分であり、付き添い者を必要としないことが前提
③訓練型:退院するために、家族が特別な技術を習得することが目的
吉武香代子(2000).小児看護への想い‐私の看護の原点‐, へるす出版
親の付き添いの現状
快適な睡眠環境がない。医療法により付き添い者用のベッドは設置できない。簡易ベッドか子どものベッドに添い寝をしている。眠いと感じている母親は75%以上、横になりたいと感じている母親は50%以上と報告されている(小林,2007)。
食事がない。多くはコンビニで3食を買うが、コンビニがない病院もある(2食で済ます親も多い)。病院によっては、入院患者と同じ食事を提供してもらえる施設もある(自費)。付き添い者に食事がない施設では7割の母親が不便を感じている(山田,2006)。
お風呂に入れない。子どもと一緒に入る(シャワーを浴びる程度)ことができる施設もある。
感染症での入院では病室外に出ることができないので、ベッド周囲のスペースで24時間子どもと過ごす。You TubeやAmazonプライムが視れる世の中になったとはいえ、暇を持て余す。
コロナ禍では、感染症を持ち込まないように付き添い者の交代ができず、入院したら退院するまで親は病院外に出れず、一時帰宅も不可能であった。また、面会も親以外はできないなどの厳しい制限がみられた(藤田, 2021)。
付き添い中に約半数の親が体調を崩していた(キープ・ママ・スマイリング, 2022)。
小林八代枝(2007)小児病棟における付き添い家族の疲労に関する支援,日本看護学会論文集 小児看護,37,312-314.
山田るみ(2006)付き添い中の母親の食事に関する実態調査 現状を明らかにして今後の対策を考える,日本看護学会論文集 小児看護,36,95-97.
藤田優一他(2021)新型コロナウイルス感染症の拡大による小児の入院環境の変化とその対応策に関する実態調査, 日本小児看護学会誌, 30, 205-212
キープ・ママ・スマイリング(2022)入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022.
小児医療における付き添い問題の論点
「誰がどのように困っているのか」立場によって、困っている内容が異なる。
親の立場から
病院側から付き添いを求められる事例:「Aちゃんは重症の肺炎で入院が必要です。当院では6歳以下の子どもが入院する際には親の付き添いが必要です。」→「夫婦共働きで1歳の妹もいるのに、退院まで24時間付き添いなんて無理!」
きょうだいの世話は誰がするのか。
仕事はどうするのか。
付き添い者のベッドは簡易ベッドで寝心地が悪い。横になりたい。
相部屋(総室)だと他の子どもや家族に気を使う(仲良くなることもある)。
同じ部屋の子どもが夜に泣くので寝れない。
ご飯はコンビニかパン。
お風呂に入れない。
付き添いができない事例:「Bちゃんは診断の結果、白血病でした。1~2か月は入院して抗がん剤での治療が必要です。当院は全て看護師がお世話をしますので、親御様が付き添いをすることはできません。面会時間は平日では3時から7時までです。」→「我が子が苦しい思いをしている時に、そばにずっと居れないなんて。親として何もできない・・・」
我が子がひとりで入院なんて大丈夫かしら
ご飯はちゃんと食べているかな、さみしくて泣いていないかな、病気で苦しんでいないかな、泣いて看護師さんに迷惑かけていないかな・・・
子どもが苦しんでいる時にそばにいることができないなんて親失格だ
きょうだいは面会にいけないので、病棟の前で待ってもらうか、祖父母に預けるなどをしないといけない。
看護師の立場から
正直、親の付き添いがないと、業務が忙しくて回らない→「超過勤務で疲弊していく」
転倒・転落や点滴の事故抜去の見守りも親がいるから安心。しかし、親に任せきりでよいのかというジレンマも感じている。
親からの不安の訴えや、親の話を聞く(傾聴する)などもしている。
私個人の経験から
私は小児専門病院で看護師として勤務していました。当時のその病院の規則「付き添いは不要です(できません)。面会は平日は15時から19時まで、土日は10時から19時までできます(それ以外は不可)」。
学生時代、恩師である小児看護学の教授はその小児専門病院で看護師長をされていました。その病院は「付き添いがなくても人員を多く配置しているから看護師だけで看護ができる。」と誇らしげにおっしゃっていました。私も素直に「へー、そうなんだ。すごい!」と思っていました。
小児がんの病棟では、半年、1年単位で入院していました(当時)。私は付き添いがない状況で入院する子どもたちの親代わり、お兄さん代わりのつもりで看護師として勤めました。「私たちは看護師だけで十分手厚い看護ができているんだ。」と思っていました。
時を経て約10年後、私の3歳の息子が入院することがありました。PICU(小児の集中治療室)に1か月、病棟に1か月入院しました。
PICUは救命第一の場所であるため付き添いはできません。面会は15時から19時でした。面会に行ける日は、仕事を早退して15時になる前からPICUの前で面会開始を待ちました。そして、面会終了の19時なると「またね」とさみしい思いで退室しました。親になって「子どもに会えない辛さ」「親として何もできない辛さ」「子どもがさみしがっていないかという不安」を改めて実感しました。
その後、おかげさまで元気になって小児病棟に移ることができ、そこで約1か月過ごしました。当時3歳だった息子には、24時間の親の付き添いが必要でした。子どものそばに居ることができるという喜びと、共働きでどうやって付き添うのかという課題がありました。祖母にも協力していただき、3人でシフトを組んで、昼間は祖母、夜は妻と私で交代で付き添いをしました。私は小児病棟での勤務経験があるので、夜間自分の子どもひとりを担当するのに苦労はなかったのですが、親が寝る時は子どもと同じベッドでの添い寝だったので、幅100センチのベッドでは寝返りができません。柵を背もたれにして45度の左側臥位で寝る感じです。
個人的には子どもとは別の簡易ベッドで寝るよりも、子どもと同じベッドの方がクッション性がよく快適でした。また、子どもの様子がわかるので安心もできました。職場にも事情を話して早退遅刻しながら付き添いをしました。
食事は病院のコンビニで調達しました(コンビニがあるだけラッキーな方です)。ピタゴラスイッチを再生して10分以内で1階まで行って買って戻ってきます。だんだん面倒になるので、長持ちして冷えててもよいパンばかりになります。おいしそうなものを買うと子どもがうらやましそうな目で見るので、子どもがうらやましがらない渋いものになりがちです。タンパク質、食物繊維、ビタミンが不足がちになります。
なんとか1か月を乗り切り、おかげさまで無事に退院することができました。お医者さん、看護師さん、遊んでくれた看護学生さんには本当に感謝です。
小児の入院環境の研究者として貴重な機会でした。自分の子どもの声、周りの子どもたちの声、モニターのアラーム、お風呂に入れない、食事がゆっくりとれない、トイレに行けない、我が子とはいえずっと子どもと二人でいると気がめいるなど、先行研究の結果を体験できました。
付き添いができないときは「子どものそばに居たい」と思いますし、24時間付き添いが必要と言われると「家のように自由にできず辛い」と感じます。
付き添いに対する考え方は、立場や状況によってさまざまであるということを実感しました。
現在、子どもと家族が安心して入院できるように、少しずつ研究を進めています。
科研費 基盤(C)感染対策と子どもの権利擁護、親の負担軽減の両立を目指した入院ガイドラインの開発(2022~2024年度)
科研費 基盤(C)子どもの最善の利益と付き添う親の負担軽減を目指した入院環境支援プログラムの開発(2025~2027年度)
つきそい応援団ハンドブック
NPO法人キープ・スマイリング様のwebサイトから「つきそい応援団ハンドブック」がダウンロードできます。
付き添い入院を快適にするためのアドバイスがたくさん書かれています。