私が主に取り組んでいる研究テーマは、入院している小児の転倒・転落事故の防止です。
子どもでは歩行時の転倒の防止だけではなく、ベッドからの転落防止の方がより重要な課題となります。認知発達の過程にある、すなわち危険を理解できない乳幼児では高い柵があるサークルベッドを使用しています。そのサークルベッドは医療者や家族が介助しやすいようにマットレスが床面より高い位置に設計されています。そのため、子どもがベッドから転落すると非常に外傷する危険性が高くなります。さらに、ベッド柵は重いため、上げ下げにコツがいります。上げ下げが面倒と感じる人は、ベッド柵を下げたままにしてしまい、子どもが落下するケースがあります。看護師がオムツをとろうと後ろを向いた一瞬に子どもが転落する、家族がトイレに行こうと離れた時に柵を上げ忘れて転落するなどが典型例です。
これらの研究の成果については下記の著書にまとめています。転倒・転落防止動画のダウンロードや転倒・転落アセスメントツールの日本語版と英語版、パンフレットなどがダウンロードできます。
「エビデンスにもとづいた入院している子どもの転倒・転落防止ガイドブック」(武庫川女子大学出版部)
こちらの書籍はすでに完売していますが、PDFをご希望の方は無料でお送りします。
小児の転倒・転落事故は、家族がそばにいた時に発生した事例が半数以上と言われています。そのため、入院した時に家族へ転倒・転落事故防止について説明し、協力を得ることが必要不可欠です。そこで、小児の転倒・転落事故の事例や危険因子について調査を行った結果をもとに、家族用の転倒・転落事故防止オリエンテーション動画を作成しました。家族の転倒・転落防止に対する理解度を高めることができ、家族や看護師の多くの方々に分かりやすいという評価を頂いています。
2022年に動画をリメイクしました。下記YouTubeでご覧ください。
また、パンフレットをダウンロードしていただき、QRコードからご家族に視聴していただくこともできます。
転倒・転落防止用パンフレット「入院中の転倒・転落防止のお願い」
子どもの転倒・転落事故を防止する際には、入院している全ての子どもに対して同じように対策を実施しては効率がよくないです。そこで、特にどの子どもに重点的に対策を実施すべきかを知る必要があります。その際に使用されるのが転倒・転落リスクアセスメントツールです。
私達の研究では、サークルベッドを使用する小児用(乳幼児)と成人ベッドを使用する小児用(幼児後期から学童、思春期の小児用)の2種類を作成し、合計1,000名以上の小児を対象に研究を行った結果をもとに、予測精度の検証されたアセスメントツールC-FRAT第3版を作成しています。サークルベッド用のアセスメントツールでは、転倒・転落を引き起こす危険因子として、疾患や病状よりも子どもの性格や親の状況が重要な因子であることがわかりました。また、成人ベッド用のアセスメントツールでは、疾患や病状が転倒の重要な危険因子であり、女の子やおとなしい性格も転倒を誘発する危険因子であることがわかりました。
研究論文
https://mukogawa.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=1078&file_id=22&file_no=1
これらのアセスメントツールや対策を一連の転倒・転落防止プログラムとしました。プログラムの内容として、①転倒・転落防止に関するオリエンテーションDVDおよびパンフレットを用いた家族への説明②小児用転倒・転落リスクアセスメントツールによるリスクの評価③ハイリスク者への集約的な転倒・転落防止対策の実施、を10病棟に入院した小児3,501名のうち1.338名に実施したところ、転倒・転落率(単位は1,000 patient-days)は2.06から1.53へ有意に低下しました。
研究論文
https://www.jschild.med-all.net/Contents/private/cx3child/2014/007306/017/0888-0894.pdf